人の手で作り続ける本物の酢。 その味わいは今も進化しています。
自遊人編集部
〜 『自遊人』特集「伝えたい味。」より転載〜
2019.3.17
Index
酢の歴史は酒の歴史。
旨味豊かな伝統製法の米酢。
エアーを吹き込んで一気に発酵させる全面発酵法。
棚田で無農薬の米作りから手掛けているという他に類のないお酢とは。
酒の発生とともに生まれてきた調味料が酢。
だからこそ、その伝統はとても長いのです。
本当においしい米酢は米作りからはじまります。
酢の歴史は酒の歴史。
酢の歴史は酒の歴史と重なるといわれます。
実は酢は、人間が作った最古の調味料なのだとか。
おそらく貯蔵した果物などが発酵して酒になり、さらにアルコール分が酢酸発酵して偶然できたのが最初でしょう。紀元前5000年の古代バビロニアではすでに、干しブドウやナツメヤシで酢を作っていたという記録があります。
ワインとワインビネガー、ビールとモルト酢といったように、歴史的に見れば酒と酢は常にワンセット。日本でも4~5世紀頃、中国から酒の醸造法とともに伝わったとされています。
旨味豊かな伝統製法の米酢。
それ以来、日本で作られてきたのは米酢。
現在はトウモロコシや麦類、酒粕などを使った穀物酢も多いですが、本来の伝統的な日本の醸造酢は米だけを主原料とし、工程の途中までは日本酒の仕込み方と同じです。
米から麹を作り、酒母を醸し、糖化とアルコール発酵を進めてできた「酢もと醪(もろみ)」は、甘く芳醇などぶろくのようなもの。
そこに種酢や酢酸菌膜を加えてじっくり酢酸発酵させることで、おいしい米酢ができあがります。
エアーを吹き込んで一気に発酵させる全面発酵法。
けれども現代では、そうした製法を守っているメーカーはきわめて稀。
「酢もと醪」を造るかわりに、甘酒にアルコールを添加することでアルコール発酵の行程を省くメーカーがほとんどです。
また酢酸発酵のプロセ スでも、伝統的な静置発酵ではなく、エアーを送りこんで発酵を促進する全面発酵法が多くを占めます。
米の使用量もまちまち。現在のJAS規格では1ℓ 中 40 gの米を使っていれば、他の穀物やアルコール、添加物など使用しても米酢と称することが許されているのです。
棚田で無農薬の米作りから手掛けているという他に類のないお酢とは。
そんな中、伝統に即した本物の米酢を作り続けるのが京都府の飯尾醸造。
明治26年に創業し、15年前からは近隣の棚田で無農薬の米作りから手掛けているという他に類ない醸造所です。
ここの酢作りは、収穫後の米で麹を作るところからはじまります。
蔵人は1か月もの間、蔵に寝泊まりして昼夜もない作業を続けるそうです。
5代目の飯尾彰浩さんは「今、発酵調味料はほとんどが工業化されています。私たちは、日本伝統の調味料を手で作り続ける価値を守りたい」と言います。
数日で発酵の終わる全面発酵法に対して、飯尾醸造が行っている静置発酵法は約100日。 じっくり寝かせることでコクやうまみも増します。また、使う米の量はメイン商品の「純米富士酢」で200g/ℓ。さらに彰浩さんが完成させた「富士酢プレミアム」では、なんとJAS規格の8倍の320g/ℓ!
「父の積年の悩みだった米酢独特の香りをやわらげるため、これまでにない量の米を使って発酵方法に工夫し、うまみや味わいも増しました」と彰浩さん。
伝統をベースにしつつ、より新しいものへと取組み続ける飯尾醸造。「その価値に共感くださるお客様の声が励みです」という言葉には、本当によいものを未来につなげる決意がのぞきます。
(雑誌「自遊人」2015年5月号に掲載)
だからこそ、その伝統はとても長いのです。
本当においしい米酢は米作りからはじまります。