蕎麦好きの中で知らぬ人はいない名店・山梨の『翁』創始者であり、現在は広島県北広島町で週末限定営業の蕎麦屋『達磨雪花山房』を営む高橋邦弘さん。
それまでの常識を覆し〝もりそば一本、二八そば一本で勝負?という独自の道を歩み、蕎麦界という独自の道を歩み、蕎麦界に大きな一石を投じた人でもあります。今ではその教えを受けた弟子たちが全国で次々に店をオープン。高橋さんの蕎麦観は着実に裾野を広げています。
そんな高橋さんの蕎麦造りへのこだわりは一言では語り尽くせませんが、中でも特に思い入れがあるのが素材選び。
「私は、蕎麦粉に限らず、醤油、みりんなど、使う素材は必ず自分の目で産地や製造元を訪れて生産者を確かめて、お互いを理解することから始めることにしているんです」
そんな仕入れの旅を続けていたある日。高橋さんは運命の醤油に出会うことになります。
「蕎麦つゆは醤油が基本です。修行していた店では、大きな老舗蔵の醤油を使っていました。独立したときも始めは同じ物を使っていましたが、〝なにかが違う?と思っていたんです」
そして、納得できる蕎麦を作るため、東京の店を閉め、山梨に『翁』を開店。それをきっかけに、運命の醤油蔵〝大久保醸造?の醤油に変えることに決めたのです。
「醤油を変えるのは、蕎麦が変わるのと同じくらい、店にとって重大事。それだけで全然違う味になりかねないですから。前々から大久保さんの醤油でつゆを作りたいと思っていましたが、いざ切り替えるとなると、思い切りが必要でしたね。常連さんがどうおっしゃるかと」
それでも、味を追求するため切り替えを決心。しかし、いざ使ってみると、別の問題が起きました。醤油は蕎麦と調和しましたが、みりんや砂糖が醤油に合いません。つゆ全体のバランスが崩れてしまったのです。
「思うような味がまったく出ない。相性の妙をつくづく感じました。結局、すべての調味料を醤油に合わせて変えることになりました」
そして、ようやく完成したその味は、それまで以上にファンを惹きつけました。
「もう、私の蕎麦には大久保さんの醤油以外考えられません。味に深みがありながら、個性を主張しないから蕎麦の繊細な風味を引き出すんです。そもそも舐めた瞬間に 〝甘味?か〝旨味?があるように感じるものは添加物を加えてある証拠。本来の食べ物には、もっと奥の深い 〝味わい?があるものなんです」
|
信州・松本の小さな醤油蔵「大久保醸造」では薄口、濃口など数類の醤油を醸造。
特に大久保さんの濃口醤油は「達磨」を筆頭に全国の有名蕎麦店がこぞって使う信頼の味。
|
|
|
|
本枯れ節、さば節、羅臼昆布、干ししいたけでとっただしに、大久保醸造の醤油などで作ったかえしを合わせて。 |
|